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『Splatoon』で任天堂がイカに稼いでいるか考える

最近、任天堂WiiUの「Splatoon(スプラトゥーン)」というゲームを楽しませて頂いております。

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Splatoonとは

イカとイカが墨を撃ち合って戦うオンライン・シューティングゲームです。

特徴として、自軍の撃った弾(インク)によってステージを塗りつぶしていき、その面積を競うことで勝敗が決まります。

シューティングゲーム」と言われると敵を銃で撃って戦場を血で染めるようなゲームを想像してしまいますが、Splatoonはちょっと違います。 敵を撃って倒すのはあくまで効率よく地面を塗るための手段であり、地面を撃って塗ることがこのゲームのミッションです。

f:id:s2terminal:20150809013301j:plain 楽しいのですが、私は弱いですのでマッチしたらお手柔らかにお願いします。

Splatoonが他のシューティングゲームと比べて何が凄いのかは、下記の記事が詳しいです。 cr.hatenablog.com

このようにゲームとしての特徴はよく語られていますが、さてこのゲームがイカに稼いでいるかを考えてみたいと思います。

Splatoonはインターネットに接続しないとほとんどやる事がありません。オンライン対戦がメインのゲームです。 それにしては月額課金もアイテム課金も一切なく、ソフトウェアのパッケージ買い切り価格のみで遊ぶ事ができます。(ただし定価5,700円のフルプライスパッケージです)

そんなお金の臭いのしないゲームで突然始まったのが「東洋水産」「KILIN」といった企業とのタイアップイベントです。

フェスによるタイアップ企画

Splatoonでは月に1度くらい「フェス」と呼ばれるイベントが不定期に開催され、ユーザはそこで2つの陣営のどちらかを選び、相手の陣営と戦って勝利を目指すことになります。 それだけならばIngressでエンライテンドかレジスタンスどちらを選ぶか?程度の話なのですが、ここに企業とのタイアップ企画が入ってきます。

先日は KILIN 午後の紅茶とタイアップしたレモンティーVSミルクティーというフェス があり、私も普段はBlendyミルクコーヒーを飲んでいる所を、この日は午後の紅茶ミルクティーを飲みながら応戦しました。 広告枠としての機能を果たしていますね。

フェスでは陣営の得票数と勝率を競い合い、結果に応じて特別なアイテム「スーパーサザエ(Super Sea Snails)」が入手できます。 「スーパーサザエ」を使うと、キャラクターの装備品にランダムで特殊能力を付与することができます。

他のゲームで言うところのいわゆるガチャ等の課金ポイントに相当するのですが、先述のようにSplatoonには課金要素がありません。それどころか 「スーパーサザエ」はフェス以外では劇中いかなる手段を用いても一切手に入らない という決定的な特徴があり、フェスの重要性を裏付ける要素になっています。 サーバが落ちるほど貰える魔法の石などよりもずっと希少なアイテムです。

今までに行われたフェスの内容はイカの通りです。

期間 陣営 タイアップ
6/13-6/14 ごはん VS パン -
7/3-7/4 赤いきつね VS 緑のたぬき 東洋水産 マルちゃん
7/25-7/26 レモンティー VS ミルクティー KILIN 午後の紅茶

(※ Splatoonは5/28発売)

恐らく第1回のフェスで広告としてどの程度インプレッションがあるか検証して、第2回以降のタイアップ営業をしかけたのではないかと思っています。

ちなみにフェスの内容は国によって異なるようで、北米版フェス(Splatfest)の内容はイカの通りです。

期間 陣営 タイアップ
6/4 イヌ VS ネコ -
7月? ジェットコースター VS ウォータースライダー -
8/8-8/9 マシュマロ VS ホットドッグ -

特定の企業とのタイアップは日本だけの特徴のようです。

任天堂の第76期決算参考資料によるとSplatoonの販売本数は日本国内49万本・海外112万本(おそらく北米+欧州)と、海外比率が特に低いわけでもなさそうです。 少なくとも海外市場を軽視してタイアップを仕掛けていない、という事は無さそうです。

www.nintendo.co.jp

ちなみに規模感としては、ソフト1本5000円として大雑把な売上にして80億円程度です。 四半期売上900億円だそうですので、だいたい任天堂の売上の1割はイカを売って成り立っている計算になります。

ゲームにおけるタイアップ収益モデル

オンラインゲームでサービスを提供し続けるためには、継続して収入を得なければなりません。 そのために月額課金やアイテム課金、無料でも広告付きなアプリがあったりします。

Splatoonには課金の仕組みは一切ありませんが、先に説明したタイアップ企画があり、これで広告収入を得ているのではないかと思われます。

オンラインゲームでこういったタイアップによるビジネスモデルはあまり無いのでは?と思って少し調べてみたところ、この手のゲームハード界隈のWeb上の記事はただ批判したいだけの記事(ネガティブキャンペーン)が多すぎてロクな文献が見当たらず...

というか「ステマだろう」という意見が多いです。 これがステルス・マーケティングだと言うのならメタルギアソリッドで最低難易度を選んで有り余る銃弾で敵兵士を全滅させながら突き進む私のプレイスタイルもステルス・アクションゲームだと言えるぐらい、隠れる気の微塵もない堂々とした広告です。 私はコソコソと人を欺くような事は苦手なのです。

話が逸れましたが、広告で収益を得ること自体は、ユーザ課金をさせること無くオンラインのサービスを提供する、インターネットの世界においてとても普通のビジネスモデルです。タイアップという手法をオンラインゲームの収益構造に組み込んだのが珍しいのではないかと思います。

そういえばメタルギアソリッドは、劇中にカロリーメイトPLAYBOYMacbookといった実在の企業の製品が登場し、食べ物に至ってはスネークが「うますぎる!」等の感想を漏らす事もあります。こちらも立派なタイアップです。 が、劇中に企業のPRである旨が明記されていないような気がする(スタッフロールに出てくる?)ので、ちょっと形式としてはステマに近いと思います。 さすがはステルス・アクションゲームですね。

gigazine.net

(実際にはゲーム内でのタイアップは現実世界で起こる出来事ではないと容易に想像できるので、一般に批判されるようなステマが成立する事はないと思います)

Splatoonのタイアップによる収益額

さて、任天堂は実際このタイアップ広告でどれくらい儲かっているのでしょうか。

先程の決算資料には出てこなかったので、推測してみます。 (※広告収入を得ていること自体あくまで推測です)

Rubyistならみんな大好きクックパッド社の媒体資料によると、タイアップレシピは大雑把に見て50万PVで500万円、という規模感のようです。

info.cookpad.com

ゲームとWebサービスでは性質が違いますが、Splatoonの日本国内販売本数が49万本という事はユニークユーザも最大でこの数値になります。 規模感としてクックパッドと同等の 数百万円 のオーダーを超えることは無いのではないかと思います。

また、 任天堂にとって500万円というのはSplatoonを1000本売れば手に入る金額 です。 Splatoonを全世界で百万本以上も売っている任天堂にとって、タイアップが主たる収益となるレベルではないように思います。今後も決算資料などで公表されることもなく、タイアップは粛々と続けられることでしょう。

しかし過去を振り返ってみると、任天堂はかつて、ゲームに対する課金システム導入に積極的ではなかった事で知られています。 (最近はファイアーエムブレムの例などもあるようですが割愛)

2011年7月29日(金)第1四半期決算説明会 - 質疑応答 より引用

「数字のパラメーターだけを触って、何かの鍵を開けるとか、何かがものすごく有利になるとかという形で課金する」ということは、クリエイティブの労力に対する対価ではない全然別の構造なので、それを追求すると確かに短期的に収益は上がるのかもしれないのですが、お客様と私たちの間での長期的な関係はつくれないのではないかというふうに思っていまして、こういう形での課金は、私たちのコンテンツに対してはすべきではないと、いうことも同時に話しています

(故 岩田元社長の応答)

Splatoonに例えると「スーパーサザエを10個100円で販売する」といった収益構造はすぐに思い付くと思うのですが、そういった「クリエイティブの労力に対する対価ではない」課金は「すべきではない」という回答をしています。

課金を嫌う任天堂にとって、一度売ってしまえばゲームをどれだけ遊ばれても同じなパッケージ販売と異なり、 継続した収益が得られるビジネスモデルが課金とは別の形で得られた のは収穫なのではないでしょうか。

まとめ

  • ユーザが2つの陣営に分かれて競い合う「フェス」を開催
  • フェスの陣営をタイアップ広告枠として販売
  • フェスでしか手に入らない特別なアイテムによって、フェスの価値を向上
    • 任天堂から見ればアクティブユーザー↑
    • 広告主から見ればインプレッション↑

ユーザの体験を妨げること無く商品をゲーム画面内に堂々と露出できるので、広告主にとっても効果は高いのではないかと思われます。 ユーザに課金させること無くオンラインゲームの継続収益を成立させる、こういったタイアップによるビジネスモデルはオンラインゲームの世界にはあまり無いのではないかと思いました。

次のフェスは?

明治製菓とのタイアップ企画「きのこの山」VS「たけのこの里」戦争はいつでしょうか。 たけのこ派に勝利する日が来るまで私はデュアルスイーパーを撃ち続けて待っています。

2016年2月7日追記

この記事を書いて半年以上が経ち、当初第3回だったフェスも第10回まで行われました。 その結果どうだったのかを別の記事にまとめました。

s2terminal.hatenablog.com