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【レイティング・ランキングの数理】 スプラトゥーンとポケモンのレート計算式を読み解く

レイティング・ランキングの数理 ―No.1は誰か?―という本を読んでいます。

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数年前に買った『Google PageRankの数理』の続編のような立ち位置で、本書はPageRankに限らずより一般的な順位付けの手法を数多く語った本です。

例:Splatoonのウデマエ

まず本題に入る前に、例として『Splatoon』のガチマッチのウデマエについて軽く触れておきます。

計算方法はガチマッチ指南 - スプラトゥーン(Splatoon) for 2ch Wiki*に記載されています。以下にウデマエによる獲得基準ポイントを引用します。

ウデマエ ±
+20 +15 +12
+10 +10 +10
+10 +10 +10
- +4 +3

これらにいくつかの要素が加わって実際のポイントが前後するのですが、基本的には 自分の所属ランク帯にウデマエの変動値が依存する ようになっています。

さて、このSplatoonのウデマエ計算式は、他のゲームと比べても結構特殊な物だったようです。 では一般的なレーティングとはどのような物なのでしょうか。

『レイティング・ランキングの数理』に紹介のあった手法のひとつ、チェス等の順位付けに使われている 「イロのレーティング(Elo Rating)」 について見てみます。

イロのレーティング

イロレーティング - Wikipedia

プレイヤーi,jのレートをそれぞれr_i,r_jとおきます。 iとjとの勝負を考えます。

このとき「iがjに勝つ確率 E_{ij}」を下記で表します。

{ \displaystyle
  E_{ij} = \frac{1}{1+10^{ -{d_{ij}/400}}}
} ・・・(1)

ここで d_{ij} = r_i - r_j、つまりレート差で、高いほどiの方が強いということです。

そしてiとjが対戦した後、下記の計算式でiの新しいレーティングを算出します。

{ \displaystyle
r_{new} = r_{old} + K(S - E_{ij})
} ・・・(2)

Kは定数で、高ければ高いほどレートの変動が大きくなります。Sはiがjに勝ったら1、負けたらゼロ、引き分けなら1/2とします。つまり勝った回数です。

詳細な仕組みは『レイティング・ランキングの数理』を読むか、Web上の文献だと下記が詳しいと思います。

lfics81.techblog.jp

イロのレーティングは以下の特徴を持ちます。

  • レートの平均値(初期値)は1,500
  • レートの差が200ある場合、約76%の確率でレートの高いほうが勝利する

ポケモンレーティング計算式

最近ポケモンのレーティングバトルをしていたので、このレート計算式を題材として読み解いてみます。

ポケモンXY ORAS データまとめ wiki - 基礎知識より引用

勝利時に加算される値 = 16 +(相手のレート - 自分のレート)× 0.04
敗北時に減算される値 = 16 +(自分のレート - 相手のレート)× 0.04

つまりレートが同じなら16変動し、レート差25ごとに1増減する。

※小数点以下、切り捨て

※レート差が400以上差がある場合、勝利時に加算される値はゼロ

つまり下記の式となるようです。

勝利時:  r_{new} = r_{old} + 16 + \frac{1}{25}(r_j - r_i)
敗北時:  r_{new} = r_{old} - 16 - \frac{1}{25}(r_i - r_j)

これを先程の S d_{ij}を使うと、下記に書き換えることができます。

{ \displaystyle
r_{new} = r_{old} + 32(S - (\frac{1}{800}d_{ij} + \frac{1}{2}))
}

イロレーティングの式のような形に変形することができました。

これを実際に先程のイロレーティングの式(2)にあてはめると、

 K=32
 E_{ij} = \frac{1}{800}d_{ij} + \frac{1}{2} ・・・(3)

となっています。

勝率 E_{ij}の部分が、(1)と(3)とで大きく異なっている事が分かります。

これはイロのレーティングを修正したレート変動を計算しやすくした近似系のようで、Wikipediaによると棋力などのレーティングにも用いられている計算式のようです。

実際、イロのレーティングでレート変動を計算するには対数計算を使う必要があり、とても暗算では求められません。 ですが(3)の式でしたら、その場でかんたんに計算することができます。

ここまでをまとめると、下記のようになります。

イロレーティングにおける勝率の計算式

{ \displaystyle
  E_{ij} = \frac{1}{1+10^{ -{d_{ij}/400}}}
} ・・・(1)

ポケモンなどで使われている勝率の近似式

{ \displaystyle
 E_{ij} = \frac{1}{800}d_{ij} + \frac{1}{2}
} ・・・(3)

イロのレーティングとその近似の比較

さて、この近似はどれくらいイロのレーティングに近いのでしょうか。

カシオ計算機のサイトで f(x)=(1/800)x+1/2、g(x)=1/(1+10-x/400) として算出しました。

keisan.casio.jp

d 近似 イロ
0 50% 50%
100 62.5% 64.00649998%
200 75% 75.97469266%
300 87.5% 84.90204428%
400 100% 90.90909091%
500 112.5% 94.67597848%

レート差300あたりまでは近い値が出ていますが、400で勝率100%を超えてしまい、非現実的な値となっている事が分かります。

実際のグラフは、下記のサイトだともう少し見やすくなります。

http://ja.numberempire.com/graphingcalculator.php?functions=1%2F(1%2B10%5E(-x%2F400))%2C%20x%2F800%2B1%2F2&xmin=-451&xmax=549&ymin=-0.1&ymax=1.1&var=x

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x≧400で1.0を突き抜けていることが分かります。

実際に、ポケモンでもレート差400以上ある時には例外措置が取られています。

ゲームにおけるレーティング

このイロのレーティングがどれくらい優れているかはレイティング・ランキングの数理に書かれている通りなので省略します。

ここで、冒頭に挙げたSplatoonのウデマエに話を戻します。

Splatoonのウデマエについて解説された記事がありますので、これらに目を通してみます。

Evaluating Splatoon's Ranking System より引用

nearly 75% of Splatoon players will end up with the rank of A−, A, or A+, with over 36% of players having a rank of A+

※上記はランクS,S+が追加されるアップデートよりも以前のものであり、A+が最高ランクの頃の話です

スプラトゥーンのウデマエ分布に関して - でこすけの日記 より引用

勝敗が完全にランダムだと半分以上のプレイヤーがクラスSになります

説明は省きますが、Splatoonのウデマエは特定ランク帯にプレイヤーが偏るようになっているようです。

さて冒頭にて、Splatoonのウデマエ変動の計算方法は他のゲームとは異なる独自のロジックに基づいている事を示しました。 実際にイロのレーティングの計算式を見た後であれば、その異質さは一目瞭然だと思います。

つまり「イロのレーティング」は勝率に基づいた客観性のある算出方法であるのに対して、「Splatoonのウデマエ」はどうやら 特定ランク帯に偏るよう意図して作られているらしい 事が見えてきます。

これはどういう事かというと、ある程度は プレイヤースキルに依存せずともランク上昇を味わうことができる 仕組みになっています。乱暴に例えると、プレイヤースキルよりもRPGのレベルのようにプレイ時間の影響を受けやすい指標だということです。 また、良くも悪くもウデマエがプレイヤースキルをあまり反映しておらず 実力差の大きいプレイヤーとも結構マッチしやすい仕組みだった ということです。 そのようにデザインされたゲームらしい事が分かりました。

おそらくプレイヤースキルを定量化して過度な競争を煽ることを嫌って、このような平和的な仕組みを取り入れているのだと考えます。競技性よりもパーティゲームを重視する、実に任天堂らしい設計だと思います。

まとめ

「イロのレーティング」という手法があり、ポケモンなど多くのゲームや競技のレートはこの方法をもとに算出されている事が分かりました。

一方Splatoonのウデマエは、プレイヤースキルを定量化するという目的よりも、ある意図を持ってゲームデザインのひとつとして設計されたらしい事が分かりました。

参考文献

www.kyoritsu-pub.co.jp

本記事は、本書の第5章「Eloのシステム」のうちほんの数ページを参考にして書かれました。

本書には他にも数々のレイティング・ランキングの手法が紹介され、また前提知識となる数学的な要素が結構省かれているので、見た目以上にボリュームがあります。まるで大学の教科書を思い出します。 (実際、教科書としても使えるよ!と冒頭に書いてありました)

ランキングを作るという、ただそれだけでここまで奥深い内容になるのだと思いました。良い本です。